あんた、私の部屋に入ったことあるの?」
凪の目がぎらついた。
「昔ね、何度もあるよ。あなたの部屋から見える景色が一番いいことも知ってる」
「ふん、あんたの部屋なんか物置だもんね」
「やっぱり物置だったか……」
私はつぶやいた。
「あ?」
「誠さんに、私に近づいて何か聞き出せって言ったんでしょ?」
「ふん」凪が足を組んで、斜めで私を見る。「だってあんたがやったんだもん」
「可哀想に、一緒に暮らしてまで」
「誠はずっと私に惚れてたからね。なんでもするんだよ」
「そう。じゃ、計画失敗ね」
「あー使えない」
「可哀想、誠さんには裕也くんがいるんだよ」
「どうでもいいよ」
「裕也くんの心まで弄ぶの?」
「あんただって知ってて、それ受けてたんでしょ、今言ったじゃん」
「それは……」
「いい子ぶんないでよ。生まれた時から殺人者のくせに」
私は凪を睨んだ。
「あー、お兄ちゃん、会いたかったなー、ほんとに。ママも会いたくて会いたくてたまらなかったって言ってたな、その分あなたが憎くて憎くてたまらないって」
「そんなのどうでもいい」
「は?」
「もう、あなたもママも終わりだから」
「はぁ?」凪が大きな目を見開く。「あんた何言ってんの?」
「ここであと十二年ほどかな。出る頃は三十五過ぎか。女性の一番いい時代はとっくに過ぎてる。出所したらしたで、犯罪者っていう肩書きは消えないもんね、あなたはずっと後ろ指刺されながら生きて行く」
「それはあんたでしょ!」
「どうして? 私はこうやって普通の世界で生きてる。それにまだ二十六歳だしね。まだまだ私の人生は開けてる。あなたに同情されることなんてこれっぽっちもないよ」
「あんたね!」
「頼みの綱の母親は精神科に入院してるしね」
凪が悔しそうに唇を噛んで歯軋りをした。
「結局、あなたも母も私に固執し過ぎたのね」
「は?」
「私が怖かった?」
「怖い? あんたが」凪が笑った。
「あなたがどんなに否定しても、結局はそういうことなの」
「調子に乗んじゃないわよ!」凪が立ち上がって叫んだ。
「ねぇ」私は凪と私の間にあるガラス板に顔をグッと近づけた。「私の勝ち」
凪の顔が歪みに歪んだ。
「てめえ!」凪が立ち上がり椅子を持ち上げた。そこで刑務官に後ろから羽交締めにされる。それでも足をバタバタさせながら、「あんたがやったんだよ! あんたが! このままじゃ済ませないから! 絶対。見とけよ」と叫んだ。
「じゃ、さよなら、もう来ないから」
私はそう言ってドアを開けて部屋を出て行った。
刑務所を出る。爽やかな風が私の頬を撫でる。いつの間にか季節は気持ちいい秋を過ぎて冷たい風へと移り変わっていた。