春翔〜HALCAL〜

春を翔るように、徒然なるままに表現します。

フロム•ゼロ 29

オムライスでいい?」

「うん!」裕也が言った。

 それから私はキッチンを片付け、オムライスを作った。誠の分も一応作ってラップをし、冷蔵庫の中に入れた。

 その間、裕也はオムライスにぱくついていた。

「美味しい?」と聞くと満面の笑顔で「美味しい」と裕也が答えた。

 そんなとき、玄関の鍵が開く音がして、「パパだ!」と裕也が叫んだ。そして立ち上がり玄関へと向かうので、私も着いて行った。玄関ドアが開いて誠が入ってくる。その瞬間、私と目が合って、誠は驚きの表情で私を見ていた。

「あれ? 君はあの時の……なぜここに?」

 私と裕也はそんな誠の顔を見て、笑った。

「なぜでしょう?」裕也が言う。

「なぜでしょう?」私が笑う。

「えー」誠は立ち止まったままそんな私を見て笑った。

「とにかく入ったら」裕也に言われて「だよな」と言いながら誠が家の中に入ってきたので、そのまま私と裕也も歩いて中に入った。

 そして誠がテーブルの上を見てまた驚いた。

「お姉ちゃんが作ってくれたんだ」言いながら裕也は席につき、食べかけのオムライスを食べ始めた。

「僕がね、喧嘩してたのをお姉ちゃんが助けてくれたんだよ」

「それは、それは」誠が言う。

「助けたわけじゃないです。たまたま通りかかったので声を掛けたら逃げていっただけです」

「それで、裕也を送ってくれたんですか?」

「はい」

「で、裕也がお腹空いたって駄々をこねたと言うわけですね」

「そう……ですかね」私は笑った。

「そうだよ。でね、お姉ちゃんが作ってくれたの」

「美味しそうだな」

「すみません、キッチン勝手に使わせてもらって」

「いえ、いえ、逆にすみません」

「誠さんの分もありますよ。よかったら」

 言いながら私は冷蔵庫を開けてオムライスを出して電子レンジの中に入れた。

「てか、ごめんなさい、冷蔵庫とか勝手に開けたりして」

「いえ、全然いいんですよ」

 誠が嬉しそうにテーブルに着く。「そうだ、手洗わなきゃ」すぐに立ってリビングから出ていく。その間にオムライスが温まり私はテーブルの上にそれを載せた。そこへ誠が戻ってくる。

「いただきます」誠がオムライスを一口スプーンに乗せて食べた。「うまいっ!」

「そんな大袈裟な、たかがオムライスです」

「いや、意外と難しいんですよ。こういう素朴なのって逆に」

「そんなもんですか」

「そんなもんです」

 誠はオムライスを食べ続けていて、裕也は食べ終えて誠の顔を嬉しそうに見ていた。

「これも運命かな」誠が言った。

 私はそれに答えず微笑んで裕也を見ていた。

「神崎さんは食べられたんですか?」

「いえ」

「え……」誠が食べていたものをごくりと飲み込んで「何か取りましょうか? お鮨でも」と立ち上がった。

「あ、大丈夫です。帰って食べますので」

「でも、それじゃ」

「あ、ほんとに大丈夫です」

「いや、すみません」誠が頭を掻きながら座って、またオムライスを食べ始めたた。

「僕は長田駅の先の病院で勤めています。神崎さんはどこにお勤めなんですか?」

「私は横田駅のすぐ近くです」

「そうですか、じゃ、ここから近いですね」

「そうなんですよ。なので自転車通勤です」

「へーいいなぁ」

「電車通勤疲れますよね」

「それだけで一日の半分のカロリーを消費してる気分になります」

「確かに」

「あ、何か飲み物でも」誠が立ち上がったので、私も立ち上がって「私がやります」と言った。

「すみません」

 誠が座り直した。

 私はキッチンで、お茶を沸かした。

「お茶の葉はどこですか?」

「お茶の葉?」

 誠が立ち上がって、キッチンまで来て、キッチンの備え付けの棚を開ける。「どこかなぁ」

「あ、じゃ、お水で」私はキッチンのすぐ下に置いてあったミネラルウーターをコップに注いだ。

「すみません」

 誠がまた座り直す。

「いつもお水ですか?」

 そのコップを持って、私もまた誠の前に座り直した。

「そうですね、それかペットボトルを買ってきます」

「そうですか」

 一瞬、沈黙が私達を包む。

「妻、出て行ったんです」誠が口を開いた。「こいつを置いて」

「あっ……」私は裕也の顔を見た。

「いいんです。こいつ全部知ってますから」誠が裕也の頭に手を置いた。裕也は小さく頷いて私を見た。

「そうですか」

「男と逃げたんです」

「そう……ですか」

「寂しくさせちゃったんですかね、僕も忙しかったから。俺はいいんですよ。でも裕也まで置いていくなんてね」

 私は裕也の顔を見ようとしたが、見られなかった。きっと寂しそうな顔をしているだろうなと思うと、見られなかった。

「人はわからないもんですね、あんなに裕也のこと可愛がってたのに」

「ほんとに、そうですね」

「お姉ちゃん、また来てくれる?」裕也が私を見て言った。その目がなんとなく寂しそうで、私の胸がキュッと鳴いた。

「うん、また来る」

「ほんと?」裕也の目がキラキラと光る。

「うん、またオムライス作ってあげる」

「やったぁ!」裕也が立ち上がって声を上げた。

 私が誠の顔を見ると、誠も嬉しそうに微笑んでいた。その瞳が優しく潤んでいる。