裕也が食べ終えたのを確認して私たちは店を出た。
「美味しかったね」裕也が私を見て微笑んだので、私も「美味しかったね」と微笑み返した。
「それでは」私が二人の方に頭を下げた「失礼します。今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
誠も私の方に頭を下げた。
「それでは」
私が彼らに背を向けて歩き出そうとすると、
「あの」と誠の声が聞こえて私は振り返った。
「もしよかったら、また食事などご一緒していただけませんか」
「え……」
「もしよかったらなんですが」
「はい、こちらこそ」私は誠に微笑んだ。
「ありがとうございます」
「お姉ちゃん、またね」裕也が私に手を振ったので、私も手を振って、私はまた歩き出した。
連絡先はお互い交換しなかったが、私はまた誠と会えるような気がしていた。もう邪魔者はいないのだ。私はこれから先の人生を謳歌してもいいような気になっていた。
それから一月ほどが経ったある日、いつものようにスーパーから自宅へと帰っている途中で、二人の男の子と泣いている男の子の輪を見かけた。よくある喧嘩だろうと思い、通り過ぎようと思ったが、何気に泣いている男の子の顔を見て足が止まった。その男の子は裕也だった。
「裕也くん、どうしたの?」私が声をかけると、二人の男の子がこっちに振り返った。そして「ヤベェ」とかなんとか言って駆け足で逃げて行った。取り残された裕也の元に行くと、裕也はこぼれ落ちる涙を手の甲で拭ってこっちを見た。
「いじめられたの?」
「ううん」裕也が大きく首を振った。
「喧嘩でもした?」
「ううん」もう一度裕也は大きく首を振る。
「とりあえず帰ろっか。お姉ちゃん、送ってくよ」
「うん」裕也が頷いたので、私は裕也の手を取って道を歩き始めた。
十字路まで来て「どっち?」と聞くと左を指した。二人並んで歩く。また十字路まで来て「どっち?」と聞くと、右を指した。私のアパートがすぐそこにある。その私のアパートを通り過ぎてまた十字路。「どっち?」と聞くと左を指した。しばらく歩いていると裕也の足が止まった。「ここ、お家」
そこはこのあたりでは一番新しくおしゃれな分譲マンションだった。
「何階?」
「九階」
「じゃ、一人で行ける?」
「お姉ちゃんも来て」
裕也に手を引っ張られ、私は裕也と共にマンション内に入った。入り口で裕也が鍵を出し開ける。そしてエレベーターに乗り込む。
「パパが帰るまで一人なの?」
「いつもは学童塾にいるよ。でも今日はお姉ちゃんが帰ろって言うから」
「そっか、悪いことしちゃったね」
「いいさ、そんなの」
九階でエレベーターが止まり、私たちは降りた。それから端から二番目の部屋の前で裕也が止まり、鍵を開けて中へと入った。
「じゃ、お姉ちゃん、帰るから」
「入って」
「でも」
「僕、お腹空いた」裕也がその場で座り込んでしまった。
子供だけの部屋に入り込むなんて気が引けるけれど、お腹空いたと座り込むわずか6歳ぐらいの男の子を放って帰るのも気が引ける。
「じゃ、少しだけお邪魔します」
私は家の中に入った。家の中は綺麗には片付けられているものの、やはり男手一つなのだろう。キッチンには汚れたお皿がいくつかあり、その横にカップ麺の空きがらなどが転がっていた。遠慮がちに冷蔵庫を開けると、いくつかの野菜とハムがあった。卵もある。炊飯器を覗くとご飯が炊き立てであった。そこから湯気がもくもくと出る。