そうなんですね」私は納得したかのような顔になった。
「なぜに?」
「斎藤さんを弄ばないでって言いに行きました」
「へえ……」
「なんですか?」
「いや、意外だなって思っただけです。そんな風にもう悟りの境地みたいな思いでいる人が」
「二度目なんです。こんなこと。高校の時もあったんです。私と仲良くしてた男性に凪が声を掛けて、そしたらすぐ凪の方に行っちゃって。まだ私も若かったからショックでしたけど、でも凪はすぐその子に興味なくしてしまって」
「ほぅ」
「彼女にとっては遊びなんです」
「へぇ」
「だからそういうのはやめてほしいって言いに行ったんです」
「そうですか」
「はい」
「だけど、そういう話を聞いてると、拘っているのは妹さんの方に見えますね」
「え?」
「あなたに」
「面白がってるだけです」
「ちなみになんですが、その当日の夜七時ごろはどこにいらっしゃいました?」
「あの後は、家に帰って、そのままずっと家にいました」
「そうですか、いや、すみませんでした。では失礼します」藤井が私に頭を下げた。その向こうで紺谷も頭を下げていた。
私も彼らに頭を下げて、自分のアパートの階段を上がって行った。
しばらくして私は足を止めて階段の下を覗き込んだ。刑事二人はかなり向こうまで歩いて行っていた。そんな二人の背中に月の光が降りていく。そしてゆっくりと暗い道を歩いて行く。
私はそんな二人の背中に微笑んだ。
「早く、解決してください」
それから私はスマホで幾度もニュースを確認した。だが斎藤さんの続報が流れてこない。あの証拠だけではダメだったのだろうか。そう思っていた矢先、スマホにニュースが飛び込んできた。
【速報】先日高層ビルから転落した斎藤樹さんの続報です。斎藤樹さんの転落は殺人事件へと切り替わりました。容疑者として神崎凪さん(二十歳)が警察へと連行されました。”
そこで動画が添付される。それをクリックすると、凪が警察に連行されている姿が流された。凪は「私じゃありません。ねぇ、ママ助けて」と凪が叫びながら連行されている動画が流れていく。そこで顔を隠された人物が連行している警察の元に行って、警察の手を掴み「ねえ、凪がそんなことするわけないでしょ。その手を離しなさい」と叫んでいる人が映っていた。
私はそれを確認してスマホの画面を切った。
それから凪の家からワンピースが見つかったらしい。そのワンピースのボタンはまさしく刑事が持っていたボタンだった。そしてそのボタンが一つ外れていたのだった。これが決定的だった。事件の日、二人が一緒にいたことも、そしてその日、凪がそのワンピースを着ていたことも分かった。コンビニの防犯カメラなどで確認されたらしい。雑居ビルの入り口の防犯カメラにも二人が一緒に入っていく姿が映っていたとのことだった。そして樹が落ちたであろう屋上の五センチの段差の辺りにちぎれた糸が落ちていたことも、証拠の一つとなったらしい。