普通って何よ、普通って、なんかあるでしょ? こうちょっと陰気臭かったとか、可愛くなかったとかさ」
私は首を傾げた「特に、何も」
「なんかあるでしょ、あんたって相変わらずつまんないよね」
「で、二回目は?」村上が聞いてきた、
「二回目は二人でした」
「えー? 二人だけ? なんで?」村上が言った。
「誘われて」
「なんで、あんたなんか誘うんだろ。謎。まぁもういないからいいけどさ。趣味変わってたんだね」松田が言った。
松田は急に興味が失せたような顔をして、自分のパソコンへと視線を戻した。それと同時に村上と佐藤も視線を自分のパソコンへと戻した。
それから幾日が過ぎた頃だろうか。仕事が終わり、スーパーに立ち寄って帰っている私のアパートの目の前に誰かが立っていた。ふと足を止める。その影の下にはいくつもの吸い殻が落ちていた。
しばらく歩いていくと、その影がこっちを見て姿勢を正した。それを見て、その影がこの前の刑事だろうと推測される。私はそこまで歩いて行った。
「お帰りなさい」頭に白髪の混じった方の男性が言った。確か藤井と言っていたと思う。
「はい、何か?」
「すみません、何度も。いや、自宅にまで押しかけてしまって」
「いえ」
「あの、この前見せたボタンなんですけど」
「はい」
「持ち主がほぼ分かりまして」
「そうですか。それは誰なんですか?」
「またまたぁ、ご存知のはずなのに」
「いえ、知りません」
「スマホ、見せていただけませんか?」
「え、あの……」
「令状があるかと聞かれればないんです。でもどうかご協力いただけないですかね」
「と言いますと?」
「ほぼ事件で確定してます。ほぼほぼ犯人も分かっています。あとは証拠だけなんですよ。いや、家宅捜索令状が出されればこんなお手間かけないんですけどね。でももう処分されている可能性もあるわけでして、我々としてはその前になんとか証拠を手に入れたいという思いがありましてね」
「それをなぜ私が持っているとお思いに?」
「この前のあなたの反応を見てです」
「え?」
「あれを見た途端、あなたは我々に早く帰って欲しいと思いましたね?」
「え……」
「そういう時は大体その証拠となるものを持っているか知っているか、証拠とまではいかなくても何かしら知っている可能性が高いという統計が出ていますのでね」
「はぁ」
さすが刑事だなって思った。刑事を前に隠し事ができるなんて素人では至難の業だろう。
「見せていただけますか?」
私はバッグの中からスマホを取り出した。
「妹さんとのメールのやり取りを見せていただけますか?」
言われて私はスマホのロックを外し、凪とのショートメールの画面を出し、刑事に見せた。凪の電番号は知っていた。その凪とのやりとりはたった六通だった。
初めてのショートメールは私からだった。
(樹さんは本当にあなたを愛してるのかしら)
その返信は二日後だった。
(これ、)そして写真の添付。
そこには桃色のワンピースを着た凪の姿が映っていた。
(樹さんのお母様のデザインしたワンピースだって。私のためにデザインしてくれたんだって。世界に一つなの。あんたなんかこんなのもらったことないでしょ)
その写真を見た瞬間、刑事の目が光りそして笑む。
それから二週間ほど経った日のショートメール。
(差し上げます。私のお古で良ければ。その代わり大切にしてください)
そのすぐ後に返信。
(偉そうに。お古ってほどの関係でもなかったくせに。でもね、もういいかなって感じ。もう飽きちゃったかなって感じ。だってあんたから奪えばもう興味なくなっちゃったからね。でもさ、意外と簡単で笑っちゃった。簡単すぎて拍子抜けしたぐらいよ。あの時のあいつよりも簡単だったって。まじで。てかさぁどうにかしてよ、あいつ、しつこいんだけど)
そのすぐ後に私が返信。
(いい加減にしてよ)
(ゲーム終了)
これで二人のやりとりは終わっている。
「ありがとうございました。これ、こっちに転送しても構いませんか」
「どうぞ」
それを終えた刑事は私にスマホを返してきた。「助かりました」
「いえ」私がそれを受け取る。
「じゃ、我々はこれで失礼します」
「はい」
刑事二人が私に背中を向けて歩いて行った。するとすぐに藤井という刑事の方が振り返った。「ちなみになんですが」
「はい」
「妹さんに彼を取られたって形になるんですかね。言い方が悪いですけども」そう言って藤井がまた私の方に歩いてきた。その後ろで若い刑事(紺谷)も着いてきた。
「まぁ、そうですね」
「妹さんを憎いと思われましたか?」藤井が私の目の前で止まる。
「憎い……」私はそのままちょっと黙ってしまった。「なんかもうそういう感情ではないんですよ。刑事さん、妹に会われましたよね」
「ええ」
「じゃお分かりになると思うんですけど、私と妹全然違うでしょ?」
「まぁ、そうですね。でもぜんぜん違う姉妹は結構いらっしゃいますよ」
「ええ、でも、まるで正反対だから」
「はぁ」
「諦めてるんです。だって男なら誰だって妹に惹かれるはずですもん」
「そんなことはないです」
「そういうのいらないです」
「それじゃ、斎藤さんのことを憎いと思われたことは?」
「もともと、なんで私なんかを誘うんだろうって思ってました。斎藤さん、素敵な人だから。だからなんで私なんかとって思ってましたから、凪の方に気が向いたとわかった時、変に納得しちゃいました。やっぱりねって」そこで私は小さく笑った。
「そうですか。あのもう一つ聞きたいのですが」
「はい」
「妹さんに会いに行ってらっしゃいますよね? 事件の当日」
「当日?」
「ええ」
「あれってそうなんですね、当日なんですね」
「ええ」