春翔〜HALCAL〜

春を翔るように、徒然なるままに表現します。

フロム•ゼロ 17

私は小さい頃から家族の邪魔者だった。外見も中身もパッとしない私は、妹という存在が生まれてからはっきりと邪魔者という存在になったのだ。妹はスタイルも良く顔も綺麗だった。それに加えて運動神経も良く、どことなく華やかなオーラを持ち合わせていた。そんな妹は貴子の自慢の娘だった。それに比べて私の容姿は十人並。持っている雰囲気はどこか暗く、その上人見知りだったから、余計に暗い子に思われた。貴子は妹の凪だけを溺愛し、私には愛情のかけらも持てないようだった。幼心にそれをひしひしと感じてはいたが決定的だったのは、あの時からだ。

 あの日は、夏休みの中頃だった。妹がまだ七歳、私が十歳の時だ。妹が突然、テーマパークに遊びに行きたいと騒ぎ出した。うちは他の家よりお金があったと思う。よく旅行に連れて行ってもらっていた。そこには私も同行していたから、貴子の私への愛がそこまでとは思っていなかったあの頃。今思えば旅行に行くのに私を置いていかなかった理由は世間体。それだけだったと今は分かる。もし私を置いて旅行など行けば、それを嗅ぎつけた近所の誰かが児童相談所に連絡するだろう。そんなことは絶対あってはならないのだ。商社の重役としては。

 凪の訴えに、貴子はすぐに承諾して、明日なら行けるということになった。父も明日なら休みが取れそうだということだった。でも明日は私も凪も登校日だった。それをいうとじゃ、それが終わって帰ってきてからにしようということになり、その日は私もルンルンで学校に出かけて行った。一時間ほどの先生のお話があり、その日は帰宅ということになったが、掃除の当番があり、その日はたまたま私が当番だった。私とクラスメイトの佐々木と二人で居残って掃除をしていたが、佐々木が不意に自分の持っていたホウキとちりとりを私の方に向かって投げた。

「お前、やっとけよ」佐々木が言う。

 こんな時、私は言い返せない。そのまま黙ってしまうのだ。

「じゃな、ちゃんとやっとけよ」

 言われた私はホウキとちりとりを拾った。今日は私だって早く帰りたい。今日はテーマパークに行くのだから。

 それでも何も言えない私は、一人で掃除を終えた。いつもより早めに終えたつもり。教室に掛けてある時計を見ると、すでに十時を超えていた。私は慌てて教室を出て走った。

真夏の太陽が私に急げとばかりに照り付けてくる。額から汗が噴き出ては目の中に入る。それを拭きながら走った。背中が汗でびっしょり濡れているのが分かる。それでも私は走った。早くいかないとママに叱られる。凪が癇癪を起こす。

 交差点を超えて、信号を無視したいができなくてジリジリと赤から青に変わるのを待つ。青になったら猛ダッシュ。すでに髪の毛は汗でベタベタだった。

 ようやく家の玄関が見えてくる。そこで私はもっと走る足に力を込める。足が棒のように感じる。もう感覚がないように感じる。それでも私の足は動きをやめなかった。

 家に着いて門の前のブザーを押す。その時すでに息が苦しくて、私は大きく呼吸を繰り返しながら腰を折って息をした。頭から大量の汗が乾いた地面へと落ちていき、小さな水玉模様をいくつも作る。その側から水玉模様が乾いた地面に吸収されて消えていく。

 ところがブザーの向こうから声がしてこない。私は大きく深呼吸をしながらもう一度ブザーを押した。そして貴子の声を待つ。ところがいくら待っても声はしてこない。

「ママ、莉子だよ」

 私は門の向こうに見えているリビングの窓に向かって叫んだ。でも窓の向こうにはカーテンがぴっちりと閉められていて、一向に動く気配がない。

「ママ……」私はもう一度叫んだ。叫びながら何度もブザーを押した。それでも声は聞こえず、貴子の姿も凪の姿も康太の姿も見えなかった。私はしばらく門の前で立ち尽くしていた。鍵を持っていないので家の中に入ることもできないのだ。私は思いついたように公衆電話ボックスに走り、持っていた十円玉を入れて家に電話をした。

 もしかしたら、色々出かける用意をしていて、玄関のブザーに気づいていないのかもしれない。